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水野 晴郎さんとルパン

親しみやすい人柄と楽しいおしゃべりで

映画解説者や映画評論家として

お茶の間の人気者だった

水野晴郎(みずのはるお 1931-2008)さん。

 

いやぁ、映画って本当にいいもんですね~!」

という口ぐせは、心から映画を愛し映画の楽しさを知っていた水野さんだからこそ、説得力をもって私たちに響いてきていました。

 


水野 晴郎さんとの出会い

もう30年近く前になりますが

そんな水野さんとご一緒させて頂いたことがありました。

以前所属していたバンドのコンサートで、ゲストとしてお越し頂いたことがあったのです。

 

SF映画音楽特集の解説者としてステージに立たれた氏は、

温かい人柄とその明晰な語り口で、聴衆を釘付けにしていらっしゃったのを今でも覚えています。

 

当時は映画解説者としてまさに人気絶頂で、テレビやラジオに引っ張りだこだった水野さんですが、そんなことは微塵も感じさせない気さくでやさしい人柄と、豊富な知識、そして両方の大きな耳たぶにびっくりでした。

 

写真は、打ち上げ時にご一緒させて頂いた時のものです。

 

金曜ロードショーとルパン

水野さんといえば

水曜ロードショー金曜ロードショーでしょう。

 

通算して約24年間、約四半世紀にわたってゴールデンタイムの映画解説者として視聴者に親しまれたことは、今更ながら大変なご苦労があっただろうし、なんとも偉大な功績だと思います。

 

 


金曜ロードショーは、1985年10月から日本テレビ系列で放送されている映画専門番組ですが、高度成長期にあった日本人をお茶の間にクギ付けにし、私も欠かさず観ていたのを思い出します。

洋画・邦画など様々なラインナップが楽しめる人気番組でしたが、その質・量ともにうなぎ登りの時期にあったアニメ映画でも良質の作品が放送されました。

 

その中で、昨年までに通算14回も放送された映画があります。

ルパン三世 カリオストロの城』がそれです。

 

モンキー・パンチ原作の劇場公開用映画第2弾(最初の公開用映画は『ルパン三世 ルパンVS複製人間』)として封切られた作品ですが、現代日本を代表するアニメーションの大家「宮崎駿」氏最初の監督作品としても有名な名作です。

 

カリオストロの城は、この後スタジオ・ジブリで不朽の名作を次々に発表していくことになる宮崎氏の原型がすでに完成形として現れており、映画としての高い品格も備えた作品です。

 

この映画を見た原作者モンキー・パンチ氏は

「(試写会で見た後の取材で)『これは僕のルパンじゃない』って言ったんですね。

『僕には描けない、優しさに包まれた、宮崎くんの作品としてとてもいい作品だ』って。

 

でもこの後半の部分が削られて、最初の一言だけが大きく取り上げられちゃいましてね(苦笑)。

僕のルパンは毒って言うか、目的のためなら手段を選ばないところとか、欲望とか人間の汚いところとか持ったキャラクターですからね。あんなに優しくは描けないなぁ」

と述べられています。

 

その第1回目の放送(1980年12月17日)の解説が、YouTubeにアップされていました。

 

 

大野雄二さんの世界

エンディングの解説の中で水野さんが触れていらっしゃいましたが

ルパン・シリーズには大野雄二さんの音楽が欠かせません。

 

作曲・編曲、また現在も現役のジャズ・ピアニストとして大活躍の大野氏。

独自の高みに達した日本を代表するJAZZミュージシャンのお一人です。

 

カリオストロの城から「炎のたからもの(今井美樹Cover Ver.)」

 

数秒聞いただけで、氏の音楽だ分かる強い個性。

都会的で洗練されたサウンドとテクスチャー。

アニメの音楽だなどと侮れません!

 

カリオストロの城では

大野氏の音楽の他に、数曲のクラシック作品が使われています。

 

その中で、結婚式の場面で流れるBGMを最初に聞いた時、

私は大野作品ではないことや

バロック・スタイルで書かれた作品であることは分かりましたが

勉強不足で、まさかバッハのパストラーレ・ヘ長調・BWV590だとは想像もしませんでした。

 

ある時は現代作品のように新しく、ある時はロマン派の音楽よりロマンティック。

バッハの音楽は、本当に深いと思います。

現代アニメーション映画のBGMとしても、全く違和感がないのですから!

 

変わることなくプロフェッショナル

年末年始の歌謡番組やテレビ番組を見ていると

新しいものや強烈な個性を持った人、

目覚ましい才能が少なくなったような気がしてなりません。

 

昨今の現代音楽やJAZZもそうですが、

現代・21世紀前半の音楽界は

アーカイブの時代』に定位しているのではないかと思います。

この後、どのように大きな変革が起こっていくのかは未知数ですが・・・。

 

しかし一方では

絶対に変わらないでほしいものもあります。

ルパン三世がそうです。

 

『ルパン三世』の面白みは、ルパンをはじめとする登場人物たちの人間的な魅力だと思います。

そういった意味で、ルパンの声優が山田康雄さんから栗田貫一さんに引き継がれましたが、見事なバトンタッチを成し遂げていることに拍手したいと思います。

 

登場人物の一人、拳銃の名手 次元大介は言います。

俺たちの世界じゃ、同じ腕のヤツはいらねぇんだ。

 

プロのあるべき姿を端的に表現した言葉ですが、『ルパン三世』はまさにそんな立ち位置にあるアニメだと思います。

 

さて1992年7月24日にはTVスペシャルシリーズ第4作となる『ルパン三世 ロシアより愛をこめて』がオンエアされますが、その際、水野さんが声優陣へのインタビューをされています。

 

ルパン三世 ロシアより愛をこめて』は、どちらかというと宮崎駿作品といった趣の『カリオストロの城』とは異なり、モンキー・パンチ氏の世界が自由闊達に繰り広げられている作品です。

 

そしてエンディングには、大野雄二氏作曲の「Golden Game」が流れます。

歌っているのは「しばたはつみ」さん。

 

本当に残念なことに2010年に57才で亡くなられましたが、まさに不出生の女性ボーカリストでした。

 

『Golden Game』には、「しばた」さんと「大野さん」という

「同じ腕を持つヤツがいない」二人の素晴らしい音楽世界が広がっています。

 

人生一直線

私が水野さんとお仕事させて頂いた昭和61年(1986年)は、水野さん55才、映画解説者としてまさに脂の乗り切った時期だったのだと思います。

 

いつもニコニコ

誰にでもやさしく、素早く対応されていた姿が忘れられません。

 

色紙にサインをとお願いしましたら

 

「下のお名前は?」と訊かれ

「一彦です。」と答えると

「では、一を入れておきましょう。」

一気に、見事に描いて下さいました。

 

水野晴郎さんはその後も活躍を続けられましたが、2008年6月、残念なことに76歳でその生涯に終止符を打たれました。

 

まさに『映画一直線の人生」であり、かつ「同じ腕を持つヤツがいない本物のプロフェッショナル」でした。

 

道は違いますが

私も氏の後を「一直線」に追いかけたい、と年の初めに思っています。