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名人の言葉

名人(Master)とは

「冴えた技をふるい、その分野で特に優れた人」と辞書にはありますが、天才(Genius)とは少し違うニュアンスが含まれているような気がします。

 

もちろん持って生まれた才能は疑うべくもないのですが、むしろその後の修練や努力によって世に認められた称号といった印象を強く感じます。

 

 


志ん朝の「名人」談

「話術」という職人芸が繰り広げられる落語の世界で、その域に達しながらも、ずっとそれを追い続けた「名人」がいらっしゃいます。

 

古今亭志ん朝(本名:三濃部 強次 1938-2001)は、父に「古今亭志ん生」兄に「金原亭馬生」という名人を持つ名跡に生まれ、特に父「志ん生」の名声と葛藤しながらも、孤高の高みに達した近年を代表する落語家の一人です。

 

江戸落語を中心としたその芸風は、常に妥協することなく完璧を期し、精進を重ねた結果として誠に素晴らしい世界を作り上げています。

 

その彼の「まくら」(演目に入る前に話される挨拶・世間話や小話など)も、またとても面白く、含蓄のあるものがたくさんあります。

 

「名人」についてもよく話されていたようで、彼の考え方を知ることができます。


淡々と語る中に、常に自己評価しながら高みを目指した「名人の覚悟」が見え隠れし、身の引き締まる思いがします。


 

日本人は「名人」という言葉が大変に好きでございまして

よく「昭和の名人」ですとか、あるいは「平成の名人」「名人会」などという言葉がありましてね。

名人がいっぱい揃っているという訳ですが・・・。

 

どうもこの名人というのは、なんかこう人が憧れる、なんか魅力がありますな。

夢があると申しますか。

 

と言うのは、あんまり今は名人と言われる方が少なくなってるんじゃないかと思いますね。

私なんか、先輩師匠から伺いました名人のイメージと申しますのは、かなり高いところにある。

 

よく私の死んだ親父、志ん生が話をしておりまして

「名人なんてものは、なかなかいるもんじゃねー。」なんてことを言いますね。

 

(中略)

 

芸能の社会で私ごときがそんなことを言っては、誠にこの失礼な、生意気な話ですが

まぁー、名人というのはいらっしゃらないかもしれないです。

 

(中略)

 

これから先は、たぶん出てこないんじゃないかと思いますな。

昔はそういう人がいっぱいいた。

というのは、上手い人もいっぱいいた。

 

なぜそういうことになるかというと

周りがやかましい

いっぱい要求がある

 

「お前、そんなことでよく人の前で話ができるな。」なんてなことを言われ・・・。

 

今、そんなこと仲間も言わなきゃお客様もおっしゃらない。

だからもう、大変にのんびりとしております。

 

平和な芸能社会。(笑)

 

そりゃ私だって、ぐずぐず言われたり、あるいは細かく厳しく言われたりするのは好きな訳じゃございませんが、決して嫌だとは思いませんです。

 

(後略)

古今亭志ん朝「文七元結」より


北野 武の「名人」談

漫才師、テレビタレント、映画監督など多方面に異色の才能を発揮しマルチな活躍を続けるタケシこと北野武氏。


氏もその著書で「」について語り、名人とは何かを考えさせてくれる私見を述べられています。


氏自身も稀有の才能の持ち主であり、また長い芸能生活で積み上げられてきた実績から「名人」と呼称してもなんの遜色ないと思いますが、氏らなではの毒舌に耳を傾けてみます。




 

志ん生も文楽も客から愛された。

 

彼らのキャラクターが客に愛されたのは間違いないけれど、ではなぜ愛したのかと言えば、それは彼らの芸が絶品だったからだ。

 

破天荒な志ん生の落語と、芸術のような文楽の落語。タイプは正反対だったけれど、二人の落語は掛け値なしにすごかった。

 

その芸があったからこそ、尊敬もされ愛されもした。

芸がなければ、ただの酔っ払いジジイだ。

 

文楽にしたって生涯に五回も結婚し、何十年も重婚のようなことをしていた人だ。今の世なら、芸能レポーターの格好の餌食だろう。けれど、そんなことは誰も気にしていなかった。

 

志ん生も文楽も、芸がなければただの人なんだ。

 

(北野武 著:超思考より)

 

最近読んだ本から

昨年冬に発売になった本ですが、うかつにも最近購入したものです。

 

天野正道 著:吹奏楽部員のための和声がわかる本

 

語りかけ口調や会話形式をとられており、楽しく読めますし、何よりも内容が充実しています。

 

天野氏が中学生の時に最初に使った和声教科書「大和声学教程」(長谷川良夫 著)を「やまとせいがくきょうてい」と読み、面食らったなど、ユーモアにも溢れている反面、「はじめに」に記されている鋭い識見には襟を正さずぬにはおられません。

 

音楽の指導に関わる方や、またその能力の向上に努める人には是非読んでもらいたいと思います。

 


我々作曲家や楽器店、出版社、演奏家など、教育現場に関する仕事をしている人間は、すべからく教育現場に足を運んで、実際の現場で今何が行われているか、いったい何がどうなっているかを常に体感しなければならない。


もちろん正しい音楽的知識を身につけていることは必須条件である。


それを怠って教育現場に関係する仕事をすることは、絶対に許されないことである。


なぜなら、実際の教育現場に接していない人間は絶対に現場で起きていること、起こりうることを見抜けないわけであり、そういったスタンスで教育現場に関わる仕事をすると、現場を混乱させ、ひいては生徒さん方が誤解してしまい、彼らの音楽活動を著しく狭めてしまうからである。


著者は、こういったいい加減な外部講師や書物にウソを教えられ、毒されてしまった教育現場をいくつも見てきている。


そういったことを防ぐためにもぜひ、本書を役立てていただきたい。


(天野正道 著:吹奏楽部員のための和声がわかる本 より)