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主題と展開 その1

言いたいことを相手に伝えたい時、一つの単語や短い文章だけではなかなか人には伝わらないことが多いですよね。

なので私たちは、まず話したい内容を整理し、優先度や強調ポイントを考慮するとともに、相手が理解できるように論理的に話しています。

 

要するに「言いたいこと」=「主題」を伝えるためには、「どのように話していくか」=「展開」がとても大切になってくると思います。

 


実は作曲する場合も同様なのです。

 

伝えたいテーマ(主題)を音楽として表現するわけですが、一つのメロディやハーモニーをどのように展開させていくかはとても苦労するところです。

 

今回は、音楽における主題と展開について書いてみます。

 

やはり主題が命

通常、曲の主題は一つのメロディやハーモニーで現します


曲を展開させていくことは前述の通りもちろん大切です。

 

しかし最も重要なことは、伝えたいことを誰にでもストレートに感じさせることのできる説得力ある「主題(メロディ・ハーモニー)」を書くことです。

まずこれがしっかりしていなければ、その後の展開でも行き詰まってしまい良い作品にはなりません。

 

ん〜〜〜!

言いたいことがないのに無理に主題を作っているとロクな作品はできないぞ!

何よりもまず主題が命!

・・・と自分を戒め、先に進みましょう。


主題動機を使用した展開方法

さて、展開のお話です。

主題を展開していくやり方は色々あるのですが、ここでは「主題動機を使用した展開」をご紹介します。


動機」とは、一般的な「きっかけ」や「モチベーション」といった意味ではなく、音楽用語モチーフ(Motiv)を訳したもので「独立した楽想を持った最小単位のいくつかの音符の特徴的な連なり」のことです。

従って動機は、主題を構成する音群の一部ということになります。


画像は拙作「嵯峨野〜ソプラノと吹奏楽のために」ですが、この作品、主題動機展開がよく出てきますので、例として取り上げさせて頂きます。



嵯峨野 〜 ソプラノと吹奏楽のために について

それでは、まず楽曲についてご紹介します。

 

日本人にとって心の故郷(ふるさと)ともいえる京都、その北西部に位置する嵯峨野は古(いにしえ)の歴史を今も語るかのように趣に満ちた土地です。

この曲は、その印象を綴った作品で4つの部分から構成されています。

 

 

第1部 嵯峨野へ (Andante )

 

一人の傷心の青年がふと旅に出る。

京都に降り立ち、嵐山を目指す。

 

嵯峨野に入り、思いにふける青年。

いまだ憂いは消えない。

 

 

第2部 風の道 (Allegretto )

 

うつぶせ気味で竹林の道を歩く。

一陣の風が吹き抜ける。

 

風の音にざわめく竹林

 

彼は、風が彼の身体を吹き抜けていくかのような錯覚におちいる。

苔むした神社に、古の時を想う。

 

 

第3部 川のほとり (Adagio / ソプラノ独唱付き)

 

気がつくといつの間にか、川のほとりに出る。

 

おだやかに流れる川に横たわる三日月のような橋

河原に座っていると、少女の唄う恋歌が聞こえてくる。

 

おだやかな日差し、川のせせらぎ、恋歌、目の前には嵐山の森。

時を忘れてたたずむ青年。

 

 

第4部 旅立ち (Allegro animato )

 

再び竹林の道から嵯峨野に入り込む。

青年の憂いは、今や心の葛藤へと変わっている。

 

おだやかな日差しは雲に隠され、茶屋ののれんが風にそよぐ。

憎しみや迷いを吹き飛ばすかのように、風が一段と強まる。

 

やがて、迷路のような道から急に広がった空間に出る。

雲は晴れ、風も弱まり、まぶしい日差しの中で草木がおだやかに微笑んでいる。

 

今、生きていることはなんと幸福なことか。

誰かがよりよく生きよと青年にささやく。

 

青年のまなざしは、過ぎ去った時へではなく、すでに「未来」を見つめている。

 


演奏時間 約17分程、交響詩的な作品です。

私は構想の段階で、ある一貫した主題(テーマ)を設定し全体を統一できないかと考えました。

 

それが「時」の主題と「嵯峨野」の主題です。

 

「時」の主題、「嵯峨野」の主題

上の楽譜は、「嵯峨野〜ソプラノと吹奏楽のために」の冒頭部です。

 

ピアノ・ビブラフォン・グロッケンシュピールが奏でる保留音の上で、ピッコロが歌いだします。

これが「時の主題」です。

千年の都《京都》の悠々の時の流れを表しています。


前奏部に続いてオーボエが奏でる「嵯峨野の主題」です。

嵯峨野の情景とともに、主人公である青年の心象風景も描写されていきます。

 

この他に「風の道」「川のほとり」「旅立ち」などの主題がありますが、全曲を通じて主題が展開されるのは上記の2つです。

 

第1部「嵯峨野へ」のイメージ音源です。

2つの主題を確認していただけたでしょうか?

 

次回のブログでは、実際にどの様にしてこの2つの主題が展開されているのかを見ていこうと思います。