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合奏法のアイデア 〜 ホルストのシャコンヌから (4)

リズムの感じ方を変えよう!

合奏法のアイデア 〜 ホルストの「シャコンヌ」から、第4回目はリズムからのアプローチです。

 

これは、以前のブログでお話ししたことですが、

言葉や文化が違うように、民族や大陸によってリズムの感じ方も違うのではないか?

その例として、ヨーロッパは「足」、アフリカ大陸やラテン系の民族は「腰」、そして日本人は「手」を基本にして踊っている。》という見解を引用しました。


 

ヨーロッパでは、伝統的に「舞踏会」が社交の中心となってきました。

そのような背景から生まれ芸術として昇華して来たのがクラシック・バレエですが、それは「足」を基本とする舞踊と言えると思います。

バレエは基本となるポジションやステップなどを見れば分かる様に、下半身に基礎をおいた踊りです。基本的に「足」の運動が、全身の運動を決定していると言って良いと思います。

 

一方アフリカ大陸の踊りは、その強烈なビート感から「腰」を軸に踊られています。

その発展系であるサンバを見ればお分かり頂けると思います。

 

そして日本の舞踊の基本は「手踊り」だと思います。

「歌舞伎」「能」「狂言」といった舞台芸術には例外もあろうかと思いますが、日本舞踊や俗楽である盆踊りなどは「手」を中心に踊られています。

 

「踊る」ことと「リズムの感じ方」は、密接な関係にあるはずです。

 

踊るとは身体のどこにどの様にリズムを現すかであり、「足でリズムを感じる」「腰でリズムをとる」「手でリズムを刻む」では、非常に大きな違いが出てきます。


足で感じるリズム

シャコンヌは、元々3拍子の舞曲です。

 

鑑賞するための舞曲として書かれたホルストのシャコンヌですので実際に踊られたことは多分ないと思いますが、踊ることを想像し演奏することはとても楽しく、また意義あることだと思います。

 

このシャコンヌが、もし古式ゆかしい優雅なワルツで「アン・ドゥ・トゥロア・アン・ドゥ・トゥロア・・・」と踊られたとしたら

そう考えるだけで、音楽の風景が変わります

 

残念ながら私はバレエをやったことがありませんが、妻が長年クラシック・バレエをやっていることからとても大好きなのです。

 

見ていますと、跳躍(ジャンプ)やステップでの体重移動が、音楽のエネルギーと一体化していればしているほど素晴らしく感じます。(そして彼女や彼らが、足を中心にリズムを表していることがわかります。)

 

ここで言う「音楽のエネルギー」とは、もちろん音楽全体やフレーズとの一体感ということもありますが、もっとミクロで見ると「小節内の拍エネルギーの循環」のことです。


(西洋音楽に「拍子」という概念が創り出されたのは、バロック時代のことです。

拍子の発明は、それまでの音楽にはなかった躍動感やドラマ性を与えました。

和声進行の終止形(カデンツ)の発明とともに、それ以降の西洋音楽の発展に大きな影響を与えたと言って良いと思います。)

 

3拍子の小節内拍エネルギー

本題に戻りますと、3拍子の拍節は「①強 2弱 3弱」です。

しかし、次の小節に進むとき、突然①強 がくることは不可能です。

なぜならば、①1に入るためのエネルギー充填が必要だからです。

 

ここで、桐朋学園大学創始者のお一人であり偉大な教育者として指揮者小澤征爾さんを始め多くの優れた演奏家を育てられた故斎藤秀雄氏の著書「指揮法教程」のお話を少しさせて頂きます。

 

指揮法教程で示されたいわゆる「斎藤メソード」の画期的なところは、指揮する際の図形だけではなく

その速度の変化や重力変化を考慮して分析されているところにあります。 

 

斎藤先生によるとウィンナー・ワルツのような「3拍子一つ振り」では

① 加速

2 減速 → 滅速

3 加速

の様に速度変化があるとされ、下から時計回りに廻る円運動で説明されています。

 

つまり、3拍子一つ取りの音楽ではこの加速・減速・滅速そして再び加速という運動エネルギー循環が、次の小節以降も連続することになります。

 

このシャコンヌは、基本的には1小節を3つに取る指揮法ですので一概には言えませんが、今申し上げた3拍子の運動エネルギー要素は内在していると思います。

 

指揮の図形を描いてみました。

 

左の図形では、エネルギー変化が分かりません。

 

右の図形では、1拍目から大きな加速があり、2拍目には減速と滅速、そして3拍目の裏「3ト」から

大きな加速になっていることがお分かり頂けると思います。

 



この様に、小節内には拍節のエネルギー変化があり、次に進むための準備があり、そしてそれが循環し音楽を作っていることを理解した上で演奏することが大切だと思います。


生きたリズムへ

 

シャコンヌの第3変奏です。

木管群が、この曲で初めて出現する最も細かい音価、16分音符でリズミカルに変奏していきます。

 

よく聞く演奏は、次の通りです。

1. 各拍の頭(休符がある場合、その後の16分音符)が同じ音量

2. 3拍目のみが強い

3. 1拍目(休符がある場合、その後の16分音符)が強く、その後は減衰する形


この中で3.は、シャコンヌ主題のリズム形と上手くリンクできますので良いと思いますが、一つ一つのリズム形のもつニュアンスが曖昧になってしまいます。




上の楽譜、何の曲だかお分かりになりますか?

そうです。

ベートーベンの交響曲第7番イ長調 第1楽章 第1主題の提示部です。


6/8拍子で書かれた第1主題の導入として、木管が同音を反復するリズム形を8回連打するのですが、

通常の拍節感(この曲では1拍3分割の2拍子)で強・弱と取るとニュアンスがしっくりきません。


semple pの指示に従いアクセントを平準化、ビート感を少なめにすると・・・

今度はリズムの持つ生き生きとした躍動感や、音色の輝かしさがなくなります。



そこで、発想を変えて

これは、ニュアンスもアンサンブルも、最後のクレッシェンドも全てgoodです。


同様にこの発想の転換を、第3変奏に使ってみます。

テンポ、ビート感、リズムが生き生きするばかりでなく、音楽が停滞することなく前へ前へと進み、この部分で必要な軽快なニュアンスも出てきます。

 

また、アンサンブルが格段に良くなることもメリットです。

この楽譜の風景、バレリーナがトゥ・シューズで軽快なステップを踏んでいくのになにか似ていませんか?

 

この様に、「手踊り」文化圏の日本人が、「足踊り」文化圏の人々の音楽をやる場合、

リズムの感じ方を一回リセットし、他のアプローチでやってみることはとても有益です。

 

今回は、小節内のエネルギーを有効に使いながら、リズムの発想を転換することをお話ししました。

 

次回は、「ダイナミクスの設計」についてビュアしてみます。