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合奏法のアイデア 〜 ホルストのシャコンヌから (5)

音楽にロジックはあるか?

カタロニアの建築家アントニ・ガウディによって設計され、現在スペイン バルセロナ市にあるカトリックの教会堂サグラダ・ファミリア

1882年から工事が着工され、未だ完成を見ないにもかかわらず、その独特の魅力から観光客の足が絶えることがないと言われています。

 

建築家と作曲家は似ている面があると思います。

以前のブログにも書きましたが、英語Compose

は「(素材を使って)構成」することであり、作曲家は画家を表すpainterより建築家に近いですね。

 

それにしてもこの教会、奇抜な建物です。どのように構想され設計されたかは、十分な資料がなく詳しく分かっていないそうです。

 

しかし、西洋芸術の伝統であるシンメトリ(左右対称)構造や緻密に構成された内部の景観などからは、対象物の多さの中にもかかわらず統一された論理(ロジック)が感じられます。

 


 

さて音楽は、人間の持つ気持ちや言葉では表現することのできない感情を現すことの出来る

かけがえのない芸術です。

 

現代日本を代表する詩人 谷川 俊太郎さんは

「ぼくは音楽、詩より音楽のほうが大事な人だから」と述べられ、また「詩は音楽に恋をする」「音楽には(詩で使う言葉のような)意味がないからいい」ともおっしゃっています。

 

しかし、音という(意味のない)抽象物を使って作曲家が他者に何かを伝えるためには

まず「言いたいこと」があり、それを構成する「論理」が必要であり、次に誰にでも分かる普遍的な方法でそれを表現し、また組み立てていくことが望まれます。

 

もし感情の赴くままに音を並べた場合、どれ程の人が分かってくれるでしょうか?

 

音楽は人間の気持ちや感情を現すことができますが、意識下、若しくは無意識下にロジックが存在していると思います。

 

曲全体の構成をよく理解しよう

 

さて、閑話休題

ホルストのシャコンヌから、今回は建築家のように

「曲全体の構成分析」から「より良い演奏へのイメージを作り、演奏を設計する」ことを考えてみたいと思います。

 

 

上は、3回目のブログでお見せした表です。

ここでは一番右、Loudness(音量)の部分に注目して下さい。

 

次に、下の図をご覧下さい。


こちらは、曲全体の「調性変化」と「音量変化」を図示してみたものです。

(図が見づらい場合は、ファイルをダウンロードしてみて下さい。)

 

シャコンヌの構成 ⒈
構成1.jpg
JPEGファイル 83.1 KB

 

曲の構成は「調性変化」ではあまり見えてきませんが、

「音量変化」からは、全体が「4つの部分」で構成されていることが良く判ります。

 

1. pから次第に音量を増していく「導入部

2. 運動量やダイナミクスの大きい前半のクライマックス「主部

3. 音量が再びp に落ちるとともに、平行調「ハ短調」が楽曲における「影」を作る「経過部

4. 次第次第に音量を増し、最後のカタルシスを作る「終結部

 

その他の要素として、各変奏内の細部構造がどうなっているかがありますが、ここでは割愛させていただきます。

 

シャコンヌの構成 2.
構成2.jpg
JPEGファイル 47.2 KB

 

さて、ホルストは、各部分に全小節数のほぼ1/4づつを使って全体を構成しています。

しかし、経過部のみやや長くなっています。

 

余談ですが、全体の小節数(131小節)を均等に割った場合、各部は約32小節(シャコンヌ主題4回分)になります。

経過部は、48小節(シャコンヌ主題6回分)になっています。


ホルストが意図したとは考えられませんが、この比率(1:1.5)は、黄金比分割の約1:1.618(約5:8)に近似しています。

また全体から見ると経過部の開始部分も、概ね黄金比になっています。


美しい偶然だと思います。

私はこの曲を始めて演奏した時、この経過部で、なにか《暗から明》へと陽の光が差し込んでくる様ななんとも言えない感覚を覚えことを今でも記憶しています。


これが、この曲でホルストが一番言いたかったことだったのかもしれません。

心して演奏すべき部分だと思います!

 

そのダイナミクスで大丈夫ですか?

楽曲全体の構成からより良いイメージを持って演奏を組み立てていくこと、このシャコンヌでは、ホルストの書いたダイナミクスから分析してみました。


ホルストは、二次元の楽譜という紙の上に、確かにシャコンヌの構成を論理的(ロジカル)に書いてくれていました。しかし、実際の演奏の現場では様々な問題が起こってきます。


それは、指揮者を含めた演奏者の考え方や感じ方が統一されていないことにより起こることがほとんどです。従って、まず指揮者や指導者の皆さんが、どのように演奏すべきかをしっかりと認識し、それを伝える努力を惜しまないことが必要だと思います。



写真は、今までに聴いたシャコンヌの演奏の中で一番良いと思う音源です。

F.フェネル指揮クリーブランド管弦楽団の管楽器プレイヤーによる演奏です。


さて、第1回目でお話ししたコンサート、実はプロの吹奏楽団による演奏会でした。

しかし、フェスティバル的性格の演奏会だったせいか今回お話ししたような全ての点において??な演奏でした。

 

最後に、演奏の現場では楽譜から離れることが必要です。

ダイナミクスやバランスについては、個々のバンドで条件が異なることから、今なっている音を適合させるべくカスタマイズすることが必要です。

 

また、シャコンヌの全般的なダイナミクスで言いますと、ほとんどのバンドでpが大きく、ffが小さい傾向があります。


演奏の現場では程度の問題はありますが、楽譜上の音楽的要求を誇張(caricature)することは絶対に必要なことだと思います。

 

なぜならば「演奏」とは、お仕着せの伝達ではなく「主体的なコミュニケーション」だからです。