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楽譜見てビックリ!

えー! うそー!!

たまにですが、クラシックの楽譜を読んでいると驚かされることがあります。

耳慣れた曲です。

今までに何十回も聴いています。

楽譜も自分なりに想像していたのに・・・

・・・楽譜の風景が違うのです。

 

今回は、そんな楽譜のお話です。

 

ロマン派の作品から

ドイツロマン派を代表する二人の作曲家、R.シューマン(1810-1856)とJ.ブラームス(1833-1897)

二人は、師弟関係にありました。

またシューマンは、ブラームスの後援者としても尽力し妻クララと共に親しく付き合っていました。

当然、ブラームスはシューマンから大きな影響を受けたことでしょう。しかしシューマンの死後は、クララへの純粋な愛に悩みながら創作を続けたと言われています。


ブラームスと同世代ながら20世紀前半まで活躍したフランスの作曲家、C.サン・サーンス(1835 -1921)

フランスのロマン派を代表する作曲家です。 


今回は、この三人の管弦楽作品からいくつか《ビックリ》を書いてみたいと思います。

まずは、シューマンです。

 

シューマン作曲 ピアノ協奏曲イ短調 第1楽章 冒頭

オーケストラの前奏なしに、ピアノの独奏から始まるこの協奏曲。後年のグリーグに影響を与えたことは間違いないですね。イ短調ですし・・・。

さて、問題の箇所は第1主題が2回繰り返された後(主題の確保と言います。)20小節目からです。1stバイオリンのメロディをご覧ください。

1拍目からではなく、弱拍の4拍目からの開始です。!(◎_◎;)



同じく、第3楽章からです。

ここは指揮すると、どこを振っているのか見失いそうになる箇所なのですが、

楽譜を見ると、2小節の反復リズムを淡々と繰り返しているだけです。

シューマン作曲 交響曲第3番 変ホ長調「ライン」 第1楽章 冒頭

同じくシューマンの「ライン」です。

この優美で動的な第1主題、実は私には上の楽譜の4分の3拍子のように聴こえていました。

リズムとしては下の二分の二拍子のように取ることもできますが、これは流れが悪くてダサいですね。

 

そして下の楽譜が、シューマンの書いたスコアになります。


なんともゴージャスです。

私が想像したものよりも、グンとワイドレンジになっています。

そしてスケール感が格段に違います。

 

2ndバイオリンとビオラのリズム和音が推進力を付加しています。!(◎_◎;)


ブラームス 交響曲第2番 ニ長調 第2楽章

次はブラームスです。

21年間という長大な時間をかけて作曲した第一交響曲の後に、わずかな期間で書き上げたという第2番、彼の作品としては穏やかな明るさに満ちた作品となっています。

 

この曲の!(◎_◎;)は、第2楽章です。

 

オンビート(1拍目)で初めても良さそうに思えるメロディを、アウフタクトの4拍目にずらして開始させています。

この人の頭の中は、一体どうなっていたのでしょうか?!

次のサン・サーンスでもそうですが、彼らの音感覚やリズム感覚はどうも東洋人とは違うようです。

 

少し話が脱線しますが、ジャズ・サクソフォーン奏者、作曲家、また文筆家としても著名な菊地 成孔(きくちなるぶみ)氏が、その著書「東京大学のアルバート・アイラー-東大ジャズ講義録」で興味深い指摘をされています。

彼によると各民族の踊り方は、エリアや大陸により大きな違いがあるというのです。

 

ヨーロッパ    ー 足が基本 ー クラシック・バレエ

アフリカ・ラテン ー 腰が基本 ー サンバなど

日本       ー 手が基本 ー 盆踊り 

 

さて、下降するチェロのメロディに対しファゴットが絶妙な反行オブリガートを奏でるその下に注目すると・・・。

バスのリズム形がシンコペーションになっており、アダージョながら弛緩することのない張りつめた音楽を作り出しています。

 

これを一拍めから開始する形に書き換えると、間延びして見えるから不思議です。

天才は、聴覚上だけではなく、視覚上も美しい楽譜を書くのですね。!(◎_◎;)

 

サン・サーンス 交響曲第3番 オルガン付き

最後はサン・サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」です。

第2部の前半部分、お恥ずかしいことですが、私はずーっとこうだと思っていました。

しかしながら

サン・サーンスはこう書いていました。

一拍3分割系の2拍子(八分の6拍子)のアウフタクトから出る形です。

なるほどーーー!!

この方が、リズムの性格や、この部分の音楽が持つ情熱的なニュアンスがうまく引き出せています。


上の楽譜だと音楽が前へ進まず停滞してしまっていますし、視覚上も、馬が後ろ足を蹴り上げているみたいで美しくありません。

作曲家からのメーセージ

演奏上の配慮として、記譜に工夫することもあると思います。

ブラームスの2番やサン・サーンスでは、演奏者は心地良い緊張感を持って演奏に当たることが可能になっています。

演奏者を退屈させない、これも大事なことだと思います。

 

余談ですが、マーラーの巨人を編曲した際に、彼の徹底した音楽と楽譜へのこだわりを感じました。

演奏者がウッカリしそうなところにはちゃんと指示が入っていること、ダイナミクス指示が徹底している(なお、メッゾ・ピアノは一個もありませんでした。)ことなどには感服しました。

 

さてご覧頂きました楽譜について、

作曲家たちは決してパラノイア(偏執狂)などではなく、止むに止まれぬ表現上の欲求合理的な理由があって作曲していることをお分かりいただけたでしょうか?

 

演奏者の皆さんは、このように作曲家たちのメッセージをしっかり受け止め、明確に理解し、演奏しなければならないと私は考えます。


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コメント: 1
  • #1

    チェロ女子 (月曜日, 23 10月 2017 21:52)

    貴重な考察、ありがとうございます。たまたまたどり着いて興味深く読ませていただきました。
    私も数年前にサン=サーンスのオルガン付きを所属オケで弾いた際に、2部前半は河邉さんと同じように思い込んでいたため、かなり手こずりました。結局、自分なりの変拍子対応で乗り切りました(涙)。プロオケの皆様は問題ないのでしょうか?最近またチェックしてみましたが、やはり思い込みリズムに流れてしまいます…。ラフマニノフでも、「楽譜の風景が違う」という経験をした記憶があります。音楽的未知との遭遇という感じで楽しいですね(苦労もしますが)。